現在、
東京機械製作所玉川製造所跡地に、大型複合商業施設
「アリオ武蔵小杉」を建設するための環境アセスメントが進められ
ています。
アリオ武蔵小杉は、
高さ31m、最高部40mの建物として計画され
ていますが、これを進めるにあたり、
北側のパークシティ武蔵小杉
の用地が「第二種住居地域」であることがハードルとなっています。
■アリオ武蔵小杉のイメージパース
第二種住居地域は、4m水平面で冬至8時~16時の間の日陰が
3時間未満となるよう日照が保証されています。この規定に照らす
と、
現在の計画のアリオ武蔵小杉の建築許可を出すことができ
ません。
■川崎市まちづくり局 川崎都市計画用途地域の変更(小杉駅
南部地区)の素案
http://www.city.kawasaki.jp/50/50tosike/home/
osirase/tosikeikaku/sinmaruko_h23/soan/
soan_youto_sinmaruko_h23.htm
これを解消するために、
川崎市まちづくり局はパークシティ武蔵
小杉を第二種住居地域から「商業地域」に変更する都市計画の
変更を打ち出しています。
商業地域は前述のような日照の保証がありませんので、アリオ
武蔵小杉の建設が可能となる、というわけです。
■アリオ武蔵小杉建設予定地とパークシティ武蔵小杉
川崎市まちづくり局はこの用途地域の変更を
「従来からの周知事項」
であるとしていますが、この点について、これまでの
都市計画マス
タープランなど行政文書において当該記述は見受けられませんで
したし、私も正直なところ聞いたことがありませんでした。
これを受けて、
2011年11月26日に開催された都市計画公聴会
では、パークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワー管理組合が公述人
として立ち、用途変更にあたっての代替案を提示されていました。
※ ※ ※
<公述申述書の要旨>※公述は一般に公開されているものです。
1.建築基準法第56条の2第1項 ただし書適用を求める件
■これまで行政はミッドスカイタワー敷地を商業地域に用途変更
することは既決定であり、周知事項と説明してきた。しかしミッド
スカイタワーが販売された平成20年以前に川崎市が発表した
行政文書のどこにも当該記述は見当たらない。
■用途地域が第二種住居地域であることに着目してミッドスカイ
タワーを購入された者も相当数認められる。
■本年8月末になって初めて川崎市まちづくり局職員より、管理
組合に対して非公式の打診を受けた。我々の要請に応える形で
9月30日に区分所有者向けの非公式説明会を実施した。
■上記において、区分所有者が納得できる説明はなされていない。
■以上の経緯に鑑み、多くの区分所有者にとっては、商業地域
への用途変更は予見可能な事情と解することは困難である。
■そこで我々は川崎市に対し用途地域の変更の撤回を求めるが、
東京機械製作所再開発事業の遅延は本意でない。また、無限の
将来にわたって現在の用途地域の維持を求めるものではない。
■我々が主張しているのは、これまで享受してきた第二種住居
地域としての法益を奪う前に、他の代替措置を検討し、当該代替
措置では、都市計画行政の目的を遂行する上で、重大な公益
侵害があること若しくは他の利害関係者に対して回復しがたい
急迫な権益侵害があることを実証したうえで、利害関係人からの
理解を得る必要があると言っているに過ぎない。
■しかしながら、これまで川崎市からは、このような実証的な
説明はなされていない。
■そこで我々は代替措置として、建築基準法第56条の2第1項
「ただし書」の適用を提案する。当該措置は既存住民の法益を
変更せずに東京機械製作所再開発を可能とする、有力な代替
措置と考えるからである。
■これに対して、川崎市は先例がないとの理由から消極的な
姿勢を示している。
■ところが、ミッドスカイタワー自体が、この「ただし書」の適用に
よって建築許可が下ろされている。「ただし書」の適用により、
北側隣接地域を第二種住居地域から変更せずにミッドスカイ
タワーが建設されたわけで、全くの同条件でないにせよ先例
は存在している。
■住民自身が考えた行政法規上の具体的なカウンター提案をも
拒否し、住民から十分な納得も得られないままで、用途地域
変更を遂行するのが、果たして望ましい自治体行政なのか、
川崎市並びに関係行政官庁は真剣に考えていただきたい。
2.建築基準法第69条などに定める建築協定に関する件
■第一の主張である「建築基準法第56条の2第1項 ただし書適用
を求める件」が実現するか否かとは別に、次の点を主張したい。
■これまで事業主の東京機械製作所さんと、快適な居住性と利便
性の高い商業機能の共存のため、建築基準法第69条に基づく
建築協定実現に向けて作業を進めてきており、当事者間合意に
向けての調整は最終段階に達している。
■建築協定の内容には、ミッドスカイタワーの居住階層住民の
日照状態に関して、地表12m平面で冬至8時~16時の間の日陰
が3時間未満とする等も含めている。
■さらに、将来当事者が変更しても互いに協定の効果が持続する
ことが法律上担保された特殊な協定であり、川崎市の認可が
必要である。
■仮に第一の主張が不調に終わり、ミッドスカイタワー敷地が商業
地域に変更されたとしても、本協定は東京機械製作所再開発
事業での建物が及ぼす日照に関しては、ミッドスカイタワー
居住者が最低限の日照状態を確保するための制度的手当てで
ある。
■川崎市からは、先の住民説明会においても「できるかぎりの
支援はする」とのお言葉をいただいている。
■川崎市に対して、当該建築協定の実現に向けて、積極的かつ
前向きな指導をするとともに、申請後は速やかな認可を行うよう
要請する。
※ ※ ※
公述申述書の内容(要旨)は、以上です。
上記では、
用途地域の変更の予見が可能であったとは解釈できず、
用途地域の変更撤回を求める一方で、東京機械製作所の再開発の
遅延を望むものではないとしています。
そこで双方の利害を調整するために提案されたのが
「建築基準
法第56条の2第1項 ただし書」の適用です。
これは、
日影規制に抵触しつつも例外的に建築許可を認めるという
方策であり、
パークシティ武蔵小杉の用途地域を第二種住居地域
から変更せずにアリオ武蔵小杉を建設することが可能となるもの
です。
この適用では、具体的には
ミッドスカイタワーの4階(居住層)以上
には所定の日陰規制を敷き、それ以下は受忍するということになり
ます。
用途地域が商業施設に変更されますと一気に日照の担保がなく
なりますが、
最低限の担保は維持しつつ、隣接地の再開発事業の
推進は可能となる、というプランです。
■ミッドスカイタワーの南側(写真右手が東京機械製作所)
公述申述書にある
「前例」とは、
ミッドスカイタワー建設時にこの
「ただし書」が適用されたというものです。
ミッドスカイタワーは、これを建設することにより
北側のフーディアム
武蔵小杉(同様に第二種住居地域)への日照が不足となるため、
そのままでは建築許可を下すことができませんでした。
ここで
「ただし書」を適用することにより、建築許可を下したわけです。
その際の許可理由は、
「フーディアムは第二種住居地域であっても
住居ではないため、影響が少ない」ということによるものでした。
■「ただし書」が適用されたフーディアム武蔵小杉
※ ※ ※
もうひとつ、
「2.建築基準法第69条などに定める建築協定に
関する件」として後半に記載されているのは、前述の「ただし書」の
提案が受け入れられなかった場合の「次善の策」ともいえるもの
です。
これは
川崎市の認可のもと、東京機械製作所とミッドスカイタワーの
間で独自に建築協定を交わすもので、公述申述書にもある通り、
当事者が変更になっても有効となるものです。
当事者である東京機械製作所の業績、経営状況はたいへんに
厳しいものがあり、
将来的にはアリオ武蔵小杉も第三者に売却
される可能性が否定できません。
そうなった際、こういった公的に認められた協定が重要ということ
ではないでしょうか。
※ ※ ※
いずれにしましても、
川崎市においては、本件に限らず十分に
情報提供を行ったうえで都市計画を進めていってほしいところです。
パークシティ武蔵小杉の用地の用途変更については、当然ながら
「従来から既決定で周知事項」であったエビデンスが求められまし
たが、回答は
「それはないが、うちうちでは決めていた」というもの
でした。
それではさすがに、理解を得ることは難しいのでは…と思う次第
です。
都市計画に当たって利害が衝突したりするのは当然おこること
ですので、やはり
行政が情報は速やかに出していくこと、早い段階
で話し合いの場を持つこと、柔軟性を保つことが大切かと思います。
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